人の痛みがわかる子に育てる方法

子育て広場にいらっしゃった1歳半のA君のお母様から、ご質問をいただきました。

おもちゃの貸し借りとか、何か思い通りにならないことがあるとすぐに手が出てしまう。
「お友達を叩いてはダメ!」といくら叱っても、何度言っても、言うことを聞かなくて困っている。「痛い思いをさせないと、相手の痛みがわからない」と人に言われたけれど・・・

自分の世界に入り込んで、しっかり遊びこめるのが、ごく普通の1~2歳児の姿です。徹底的に自己中心の世界で、確固たる自分の基礎を作るのがこの時期ですから、それを邪魔するものは押しのけ、叩いてでも自分がしたいようにしようとします。
親にきちんと愛され、大切に育ててもらったからこそ、すべてを親に依存していた赤ちゃんの中にちゃんと自我が芽ばえ、自己主張ができるほどに成長したのです。お母さんの子育てがとてもうまくいって、順調に発達している証拠ですね。

とはいっても、こんなことがしょっちゅう起こるのでは、親御さんとしては周囲の方々の目もあるし、つらい思いでお過ごしなのだろうと、伺っている私も胸が痛みました。
A君は、叩かれる痛みがわからないから友達を叩くのでしょうか?
親に叩かれて、叩かれる痛みを経験したら、友達を叩かなくなるでしょうか?

「学ぶ」の語源は「まねる」から来ているとか。子どもは大人の言うことは聞きませんが、大人がすることをまねて、生きるすべを身につけていくものです。
立って歩くこと、食べ物を口へ運ぶこと、電話、化粧、掃除、なんでもまねして覚えてしまうので、子どもにしてほしいことは「言う」より「する」ことです。あいさつする、あやまる、お願いする・・・子どもが、大人がするのを見る機会をたくさん作りましょう。

感じていることを言葉で表現できるように手伝うのも大事です。
「それを取られそうになってイヤだったんだね」「それがほしかったの?」などと子どもの気持ちを想像して言葉で表してあげることを、何度でも根気強く繰り返してください。いつか言葉で自己主張できる日が来ます。あといくらでもありません。もうすぐです。少しだけ、待ってあげてほしい・・・

大人が共感し自分の気持ちを分かってくれたこと、気持ちを受け止めて表現してくれたこと、その体験を通して子どもは自分の気持ちを理解し、表現できるようになります。
寒いと感じているときに「寒いねぇ~」と言われたり、痛い時に「痛かったね」、悲しんでいるときに「悲しいね」と寄りそってもらったりしてこそ、自分が感じていることを表現する方法を会得するのですし、「感じたままに表現してよい」という暗黙のメッセージを受け取って安心します。それができて初めて、相手にも気持ちがあることに気づき、相手を思いやることができるようになるのです。子どもに「根気強く」と望むのなら、まずは親が、根気強く子どもの気持ちに寄り添いましょう。

子どもが他の人にたくさん優しい気持ちを上げられるように、いまは大人がこの子にたくさん優しさを上げてください。優しさの貯金がいっぱいできたら、きっとそれを人に分けてあげたくなります。親が自分に、そうしてくれたようにね。子どもは親のマネっこが、大好きなのですから。

言うまでもないことですが、してほしくないことのお手本は見せないほうがよいですね。親が「子どもが自分の思い通りにならないとき、叩いてでも言うことを聞かせようとする」のは、子どもが思い通りにならないと友達を叩くのと同じことです。

「しつけと体罰」 森田ゆり 著  童話館出版
もっとお知りになりたい方は、ぜひ読んでみてください。

(2012.9.10)