指導を真に受けたら、24時間じゃ足りない ~自分らしく、ほどほどに選び取る~

「子どもの栄養」誌の連載の話の続きです。

今年度のご依頼は、保健指導がテーマ。朝食をとる、おやつ、歯みがき・・・と月ごとの話題のご提案がありました。年間プランの一覧を見ながら、気づいたことがあります。個々の指導はもっともらしくても、全部真に受けていたら24時間じゃ足りないよ~

たとえば朝食について早めに起こして、ひと運動してから主食・主菜・副菜がそろったバランスのよい食事を楽しくゆっくりよく噛んで食べ、食後すぐに動くとお腹が痛くなるし消化吸収によくないので食休みも大事、食後の歯磨きも、片づけのお手伝いをさせることも大事・・・

だとしたら、通勤のために8時には電車に乗りたいお母さんなら、4時か5時ころ子どもを起こさなければなりません。「幼児期の睡眠は9~10時間必要」となると、降園後に夕食や入浴の時間が取れなくなってしまいます。おしゃべりや絵本を読むこともむずかしいでしょう。すべて指導されたようにはできないので、各家庭の事情に合わせて「ほどほどに聞き流す」ようにしないとストレスがたまります。

問題は指導する側です。「指導しても本気で聞いてもらえない」「指導を無視して平気な、困った親が多い」といった嘆きの声をよく耳にしますが、指導者が「何とかして分かってもらいたい」と熱心になると、「そのようにしないと、どんなによくないことが起こるか」というオドシの情報提供に力が入る傾向がないでしょうか?それを聞いて、相手はどう感じるでしょうか?

現実には理想の育児をしなくても、子どもは健康に育ちます。いえ、むしろしようと思わないほうが、心身の健康によいとさえ思います。親の気力体力と1日は24時間という制限の中で、できることは限られています。いろいろ指導されることを全部受け入れるのは無理なので、どれかを選び、どれかをあきらめるしかないのです。

「ほどほどが一番」と思って適当に手を抜けるほうが親の心が平和で、子どもとハッピーな時間を過ごせます。そこに「そうしないと将来問題が起こる」という不安や、「ちゃんとできない自分は親落第」といった罪悪感が入り込むと、イライラして子どもに当たってしまうかもしれません。しょっちゅう当たられている子どもの中には、怒りや自己否定の感情がたまってしまうかもしれません。みなさんよくご存じのように、ストレスほど健康に悪いものはありません。

保育者がトータルな「子どもの健康」を目指すなら、個々のテーマの指導を成功させるためにあの手この手で相手の不安をかきたてるのは、よい方法ではありません。指導者の達成感(指導が受け入れられ、成功したと感じる)が目的になっていないか、自分の心の中をチェックしてみてください。