「食べない子」とその保護者 ~東社協保育部会研修会の質問に応えて②~

6月18日、東京都社会福祉協議会保育部会主催の研修会でいただいたご質問について、何回かに分けてお応えしていこうと思います。

今回は、「食べない子」 です。
「食べない」にもいろいろありますが、会場でいただいた3件のご質問について考えてみます。

【1】「1歳頃は最も食べない時期。活動的な様子が見られれば、無理に食べさせなくてよい」とのことですが、そうすると1/3から1/4量しか給食を食べない子がいます。強制はしませんが、どの程度まで食べてもらえるように介助すればよいでしょうか?

⇒そうですね。文面から、いろいろと心を砕いて工夫や努力をなさっていらっしゃることが伝わってきます。自分でやりたがる時期なので、子どもの前には少量ずつひととおりの食事を出して、それについては自由にさせておいたうえで、保育者が別の器に取り分けておいたものをさりげなく口へ運んであげる作戦などはいかがでしょうか?
「どの程度まで介助すればよいか」というのは、「無理じい」との境目を知りたいというか、「無理じいになっていないか不安に感じる」ということなのかもしれません。難しいところですが、ものすごくザックリ言えば「本人がいやがらない範囲」になるのではないでしょうか。食べることは生物の本能的な欲求ですから、からだに異常がなく、心が自由で楽しい雰囲気があれば、必要量は必ず食べます。極端に少ない食べ方が、ずっと続くことはありません。どんなに少ないと思っても、いやがるようならやめて大丈夫です。(終戦直後、多くの日本人が飢え、何ヶ月もろくに食べるものがない環境で子育てをしたはずですが、その頃の子どもたちが立派に成長して現代社会の繁栄を築いているのですから。)

【2】1歳3ヶ月。入園当初に体調を崩したこともあって、家庭で食事よりミルクをたくさん与えているせいか、食事をあまり食べません。麦茶などに変えた方がいいと思いますが、何と言えばいいか悩みます。

⇒親御さんがどういう気持ちでミルク中心になっているのか、一度時間を取ってゆっくり話を聞いてみることはできそうですか? 他人の気持ちは聞いてみないと分からないので、想像で指導すると受け入れられないかもしれません。いくつかの可能性が考えられますが、たとえば子どもの病気を親が「私のせい」と感じて自分を責めているような場合。根っこに罪悪感があるので、子どものミルクの要求にNOが言えないとか、食べないのにミルクが減ったら栄養が足りないという強い不安があるのかもしれません。ミルクが多すぎるから食べないので、栄養的には固形食に移行した方がちゃんと摂れるというのは、客観的には正しいのですし、専門家としては指導しなければと思われるのが当然ですが、急がば回れ。まずはミルクに頼らないではいられない気持ちに寄り添って、とことん聴いてあげると、親御さんの方から「ミルクを減らした方がいいのですよね」とおっしゃる日が来るような気がします。
他にもいろいろなケースがあると思います。単純に知識がないのなら、教えてあげるだけで解決するかもしれません。「面倒くさい」「ラクだから」といった返事が返ってきた場合も、まずは否定しないで気持ちを聴いてみてください。そうした言葉の裏に、思いがけない本音(自信がない、とか)が隠れていることも多いものです。話しながらご本人がそのことに気づくと、「できる範囲でよいから改善の方向へ」という支援者の願いが受け入れられるかもしれません。

【3】支援センターに遊びに来る2歳児。1歳の時期に食べさせよう、食べさせようとした結果、食べなくなってしまったとご相談にみえています。現在好きな食べ物はなく、毎食数口で終わりで、フォローアップミルクを1日1リットル以上飲んでいる様子。お母さんと目線が合わず、関係ができてから、支援できることをしたいと思っていますが、どのように対応したらよいですか?

⇒状況は【2】と似ていますね。対応も、基本的には同様かと思います。先方からご相談にみえたのですから、支援者に助けを求めていることは間違いありません。目線が合わないのは、これまでに他の相談機関で相談して、自分のやり方がよくないと指導され、傷ついてきたからかもしれません。ここの支援者はどんな人だろう、この人からもダメ出しされるんだろうかと観察しながら、探りを入れている可能性もあります。ここなら、今度こそ、「否定しないで支えてくれる人と出会えるかもしれない」と期待してセンターにいらっしゃるのではないでしょうか。
目線が合わない感じがあっても、遊びなどのきっかけをとらえて声をかけてみてはいかがでしょう。おっしゃるように、まずは関係づくり。「絵本が好きなのですね」とか「○○が上手ですね。ママがよくお相手をしているからかな」とか、しばらくは親御さんの気持ちが和むような話題がよいと思います。そうしているうちに「この人なら」と思えたら、きっとお母さんの方から食事の話を持ち出すはずです。それが心配で、一番困っていることなのですから。
食べさせよう食べさせようとしたのは、子どもを愛すればこそ、心配でそうならざるを得なかったのですし、現在の1日1リットル以上のミルクも、自分のせいで食べない子にしてしまったといった罪悪感があれば、減らした方がよいことは頭で理解できても、受け入れられないのが自然な心情なのかもしれません。そうした諸々の気持ちを肯定的にていねいに聴いてください。「この人は私を傷つけない」と確信が持てたら、必死で張りめぐらせていたガードが少しずつ外れて来ると思います。

(2010年7月10日)