年長児の指しゃぶりは、親子の気持ちにていねいに寄り添うことから ~東社協保育部会研修会の質問に応えて④~

6月18日、東京都社会福祉協議会保育部会主催の研修会でいただいたご質問について、何回かに分けてお応えしていこうと思います。

[ご質問の要旨]
年長児の親御さんから「指しゃぶりをしています。どうしたらよいでしょう」と相談されました。自分で「赤ちゃんみたい、カッコ悪い、恥ずかしい」と分かっているようで、園ではしゃぶりません。どのように答えてあげればよいですか?

[対応のヒント]
原点に返って考えてみましょう。指しゃぶりは、恥ずかしいことですか? 指をしゃぶっていると、問題になることは何でしょうか?
子どもを育てるにあたって、必ず禁止しなければならないことは限られています。生命の危険があること、他の人や自分を傷つけるおそれがあることは、きちんと制限するのが大人の責任です。指しゃぶりは、他者を傷つけることはありませんが、自分を傷つけるほうはどうでしょうか?
まず思いつくのが、指の外傷と歯列への影響です。かなり頻繁に長い時間、強く吸っていると、指がふやけて切れたり、タコになったりしますし、前歯が外へ出てくると食物がうまく噛めなかったり、きれいな発音ができなくなったりするので、「自分を傷つける」ことになるかもしれません。
家庭で、どんな状況の時にどのくらいの時間、どのくらいの強さで吸っているのか分かりませんが、園では吸わないでいられることからすると、眠い時や不安な時などに軽く口に含む程度のものなのではないかと想像します。もしそのような状況なら、指や歯列への影響はほとんどないと考えられます。
もっと深刻なのは、心を傷つけることです。誰でもクセの一つや二つは持っていますが、やめようと思っても無意識にやってしまって、おいそれとやめられるものではありません(大人の喫煙や爪かみは、指しゃぶりの変形といわれています)。指しゃぶりがクセになっていて、やめたくてもやめられないのに、「赤ちゃんみたい、カッコ悪い、恥ずかしい」と思っているとしたら(たぶん誰かにそうしたことを言われているのでしょう)、心に深い傷を負っていると考えなければなりません。心のケアが必要です。
親御さんに、子どもが指を吸うのを見ているとどんな気持ちになるのか、聞いてみましょう。恥ずかしいとか、自分の子育てが失敗したような感じなど、自分を責めている様子なら、この数年間に親がどれだけこの子のために心を砕き、大変な思いをして育ててきたのか、一緒に振り返って心からねぎらいの言葉をかけてください。ご自身が自分を認められるようになると、気持ちに余裕ができて、子どもとゆったり接することができるようになります。時に、子どもに対する攻撃的な気持ちが語られることがあるかもしれませんが、怒りの裏側には「自分はダメな親だ」というコンプレックスや不安が隠されているので、対応は同じ。叱る(たしなめる)のは逆効果になります。
子どもへの対応ですが、指しゃぶりは、心が不安定になったときに自分の力で自分をなだめるようと子どもなりに努力している姿なので、親に対するのと同じように肯定的に聴いて、「恥ずかしい」などのネガティブな感情を軽減することが先決です。
「〇〇君は、すごくがんばっているんだね。そのことは、ママもパパもよく知っているよ」
単純に「大好き」「助かるよ、ありがとう」などの言葉掛けを増やすのでもよいでしょう。
指を吸っている時、どんな感じがするのか聞いてみてもよいと思います。漠然とした気持ちよさや安心感があるなら、「『それはステキなことだ』と認めてあげて」と親御さんに伝えましょう。
「その指は、〇〇君に安心や勇気をくれる応援団、サポーターみたいなものなんだね」

逆説的に聞こえるかもしれませんが、「指しゃぶりがやめられなくても、そのままの君でOKだよ」というメッセージが伝わることで子どもが安心すると、心理的には指を吸う必要性が減るので、無意識にしてしまうクセをやめやすくなります。
ここまで下準備が整ったら、「指を吸いたくなったらアゴをこする」とか、「鼻を触る」といった別の行動に変える提案も有効です。「指しゃぶりは悪いことでも恥ずかしいことでもないから別にやめなくてもいいのだけど、もしやめたいのなら協力するよ」というスタンスで関わることが、一番重要なコツ。やめるかどうかは、周囲の目をはばかってではなくて、本人が自分の気持ちを大切にして決めることなのです。

(2010年7月29日)