年長児の肥満と保護者対応 その他~東社協保育部会研修会の質問に応えて⑦~

6月18日、東京都社会福祉協議会保育部会の研修会でいただいた質問について、会場でお話しできなかったことをこのコラムでお伝えしてきました。今回は、最終回です。

[ご質問の要旨]
3歳ころからどんどん太りはじめ、5歳の現在も月に1kgのペースで体重が増え続けています。保育園でたくさん食べる様子はありません。ご両親は細身で、お母さんは「自分も子どもの頃は太っていたから大丈夫」とおっしゃいますが、どんな対応をすればよいでしょうか?

[対応のヒント]
1~2歳ころまでの肥満は、その後運動量が増えたり身長が伸びたりでスマートな体形になってくることが多いのであまり問題にしなくてよいのですが、3歳を過ぎて太り続けるのはやはり心配ですね(3歳以降の肥満は、成人の肥満と高い相関があることが分かっています)。お母さんも、表面的には「大丈夫」と言いながら、内心では心配しているかもしれません。
もし家庭で、無制限な過食や甘い飲み物の摂りすぎといった状況があるとしたら、きっとそうならざるを得ない理由があるので、それを「やめましょう」という対応は当面はしない方がよいと思います。たとえば親がいつも忙しすぎて子どもが甘えられないとか、携帯やパソコンに向かいっぱなしでかまってもらえないとか、親から理不尽に叱られることが多いとか、兄弟の扱いが極端に違うとか・・・そういった心の「飢え」を食べ物で満たしているような状況がある場合、その愛情や安心の代償としての食べ物を奪うことはできません。親の方に何らかの理由で「自分は悪い親」「母親失格」といった罪悪感やコンプレックスがある場合も、過食をよくないと思いながら止められないケースがあります。
保育者としてこの親子と日ごろ接している中でもし気になることがあれば、肥満という「問題」に対処するという姿勢ではなく、「このごろ何だかつらそうだけど、大丈夫?」「何かお困りではないですか?」と、親の気持ちをサポートする方向で言葉をかけてみてはいかがでしょうか。親の愚痴につきあい、苦労話に共感し、その人なりにがんばっていることを承認する働きかけを増やしたりすることで親御さんが安心すると、子どもへの対応が変わってくるかもしれません。保育園で見られた子どものよいところ、素敵な場面などをたくさん話して「ママががんばっているから、いい子に育っているね」といったメッセージを伝えて行くのもよい方法です。現実にはそうではないと思っている親御さんがそう言ってもらえたら、「そうなれるように、がんばってみようかな」という気持ちになることも多いものです。子どもに対しては、保育者がじっくり関わって、親の代わりに子どもの甘えを受容することも重要なポイントです。大人から大切に扱われることによって子どもの中に自分を肯定する力が育てば、子ども自身が自分を大切にする行動を選べる(からだに良いことをする)ようになるかもしれません。
もし、どう見てもそうした状況はなさそうなのに毎月1kgのペースで体重が増え続けるとすれば、代謝異常などの病気も考える必要があるかもしれません。

その他のご質問
 「食事中に訪問すると、子どもが遊んでしまう」とお困りの栄養士さん。食事の様子を見に行きたいし、提供した給食を食べている子と話をしたいのに、子どもの方はいつもと違うことがあるとワクワクして大騒ぎ・・・そんな光景が目に浮かんで、楽しい気持ちになりました。
遊んでしまっても平気な保育士さんのクラスなら、めげずに行けばいいですよね。繰り返し行って、栄養士さんが来るのは珍しいことではなくなると、騒がなくなるでしょうし。もし迷惑なようなら、栄養士さんがなぜ訪問したいのか気持ちを伝えて、訪問するタイミングを話し合えばよいように思います。それでもダメなら、そのクラスには行かなくてもいいような気もします。年齢や子どもの特質などによって、むずかしいこともあるかもしれません。訪問しにくいクラスは、担任の先生を通して情報をもらうなど、柔軟に検討してもよいですね。
人の気持ちは言葉に表さないと伝わりませんし、話してもこちらが伝えたかったことと違うニュアンスで受け取られてしまってあわてることもあります。一人ひとり違う成育環境で異なる体験を積んで大人になったのですから、話したことがこちらの思いとは違う形で相手に受け取られてしまうのは、とても普通のことなのです。コミュニケーションのコツは、「お互いに心の中は見えないのだから、誤解があって当たり前」と割り切ることではないでしょうか。一度気まずい思いをするとつい話すことを避けたくなりますが、初めからうまく伝わることはめったにありません。うまく伝わらなかったら、確認して修正を繰り返していけばいいだけです。まずはご自身の気持ちを率直に伝えたかどうか、振り返ってみてください。相手に分かってもらえない時、実は自分のほうがトラブルを警戒して「伝わりにくい伝え方」をしていることも多いものです。遠まわしに言って(あるいは気持ちを言わないで)、「察してほしい」と思うのは人情として理解できますが、成功率は高くありません。

ほかに、「むせる」「吸い食べ」「丸のみ」といった咀嚼に関するご質問が3件ありました。この問題は次回の研修会で専門的なお話があると思いますのでここでは取り上げませんが、こうしたトラブルを抱えている子が増えている実態と、日々奮闘していらっしゃる保育者のご苦労を改めて実感する機会となりました。ありがとうございました。
東社協と関連のない一般の読者の方で、咀嚼について詳しくお知りになりたい方は、ぜひ下記の本を参考になさってください。大変ていねいな解説で分かりやすい、おススメの一冊です。
「じょうずに食べる・食べさせる」山崎祥子 芽ばえ社

(2010 8 25)