保育界の池上彰を目指して ~専門用語を誰にもわかる言葉に翻訳する「通訳」になりたい~

驚くべきことに、「こどもの栄養」誌(こども未来財団刊)の連載が次年度も続くことになりました。自分でも本当にビックリしながら、それでも大発見をした喜びの中で新しい年を迎えました。


「親子の気持ちに応える育児相談 親子いきいきQ&A」が始まったのは平成22年4月のことです。こども未来財団の研修調査課参事 岡林一枝さんとの出会いは、私が講師を務めたNPO法人バディチームの研修です。財団が後援する子育て支援の研修会の視察にいらっしゃった岡林さんが私の過激な(?)講義をたいそうおもしろがってくださり、原稿のご依頼がありました。日頃の思いを多くの保育関係者にお伝えする貴重なチャンスをいただけたことは大変ありがたいことでした。
渾身の力を込め、一生懸命書きました。とてもやりがいのある仕事でした。おかげさまで1年のお約束で始めたものが延長されて2年続き、さらに今年度は「いきいき事典 ~健康にかかわるコトバたち~」とテーマを変えた新シリーズで3年目・・・そして昨年末に最後になるはずの3月号の原稿を書き終えました。
書きたいこと(伝えたいこと)と私の能力で書けることのギャップに苦しみ、たくさんのエネルギーと時間をつぎ込んで毎月締め切りに追われていました。「最後」の原稿を書きながら、「今度こそこれで終わり。依頼があってももう書かない」と思っていました。ああ、それなのに!
岡林さんから「もう1年」と予想通りのメールが届き、正直迷いました。依頼を受けてみると、やっぱり「書きたい私」は確かにいるのです。でも、苦しい。3年間、36種類の話を書いて「限界だよ!」と音を上げている私もいるのです。その日は返信を保留して眠りに就きました。翌朝、玄関前の道の落ち葉を掃きながら「あっ!」と思いました。

これって、若い頃の私の夢。一番やりたかった仕事じゃないの・・・

高校生の頃、生命の科学にすごく興味がありました。学びたかったけれど医学の道はもちろん大学へ行くこと自体が叶わぬ夢でした。働きながら本を読みあさるうちに啓蒙書ではもの足りなくなり、専門書に手を伸ばした時にその隔たりに愕然としました。わざとみたいにむずかしい表現が並んでいて、素人を寄せ付けない雰囲気。科学、特に医学の成果は専門家の手の中にだけ握られていて、素人がわかろうとすることはご法度 という空気感が満載でした。
生兵法は大ケガのもと。素人は理解も判断もしないで、全てを専門家に任せるべきなのか・・・そんなはずはありません。生兵法が危険なら、本格的な兵法を教えてくれればいいのです。学ぶ意欲と能力のある人はたくさんいるはず。
「私は、専門用語を庶民の言葉に翻訳する通訳になろう」と決意してお金を貯め、大学に進んだのでした。

気づけば、あのころ願ったことが多少なりともできている私がいます。あきらめなければ夢は叶う。思い続けたことは、現実になる。よく聞くそんな言葉が頭に浮かんで、岡林さんにOKの返信メールを書きました。
そんなわけで、連載は形を変えて来年も続きます。保育界の池上彰を目指してがんばってみますので、どうぞご期待ください。

(2013.1.2)