ブナの林を歩いて ~生きる価値のない人なんていない~

先日、北東北を歩くツアーに参加しました。


専門ガイドの方とともに白神のブナ林を歩いた日は天候もよく、とてもいい気分でウオーキングを楽しみました。
ガイドさんの説明は大変興味深い話ばかりで、「世界遺産を案内する」というプライドのようなものが感じられました。

木ヘンに無と書いてブナ
成育が遅い、水分量が多く腐りやすいうえ乾燥すると変形してしまう、硬くて加工しにくいなど、建築用の木材としては価値がない、役に立たない木・・・

昭和30年ころから、国の指導による「拡大造林策」によって、各地のブナ林は伐採され、成長の早いスギ、ヒノキ、カラマツなどが植林されたそうです。
日本のブナ林はこの時60%が伐採され、山奥の急斜面で機材が持ち込めず伐採できなかった場所だけにかろうじて残った、そのひとつが白神というわけです。

でも、建材としてはぼろくそに言われ、粗末にされ、切り捨てられたブナの林が、実はとても大事な働きをしていたのです。

*浅く広くしっかりと根を張って土を抱え込み、大量の水を蓄えて洪水や土砂崩れを防いでくれること

*雨が降るとスポンジのように水分を吸って蓄え、雨が少ない時期に土をうるおして作物や野草を守り、キノコや山菜などが育って雪国に暮らす人々の貴重な食糧になったこと

*ブナの実は栄養価が高く、野生動物にとって山の中で暮らせるだけの十分な食糧となるため、人との棲み分けができたこと(クマが人里に下りてくるようになったのは、ブナの林がスギなどに植え替えられたことで食糧不足が生じたのが原因だそう)

高度成長期に広範に進められたスギの植林が、今では安い輸入建材に追われて利用価値が減ったために放置され、花粉症の人が激増する事態になって・・・ブナの林を再生しようという機運が高まっている今日このごろ

なんだか人間の世界にも通ずるものを感じました。
人としての価値って、なんでしょう?
その時代にはやりの価値観にそぐわないからって、捨てたものじゃない。
私は私。
生きている価値がない人なんて、一人たりともいるはずがない。

「おまえは役立たずの無用の存在」
いつかどこかで理不尽に吹き込まれたそんなメッセージに苦しむ方々のお話を聴きながら、
ブナの林で聞いたガイドさんのお話を思い出していました。

2015.11.9