新型インフルエンザ流行中 今こそ「知識」と「客観性」というワクチンで、冷静に

9月17日、鎌倉から江ノ電に乗って、海岸にほど近い子ども会館に向かいました。
今回のミニ講座のテーマは「インフルエンザと感染症の考え方」です。


人が風邪をひくメカニズム、ウイルス感染と細菌感染の違いを考えた薬の使い方や、鼻から気管、肺へと感染する病気と、口から胃、腸へ感染する病気の違いをふまえた予防法、救急車を呼ぶべき重症化のサインなど、基本的なことをお話しした後、お母様方からたくさんの質問を受けました。予防接種の効果と副反応、ぜんそくがある子の外出… 日ごろ不安に思っていらっしゃることが次々に出てきます。

「道路を歩いてここへ来るより、家の中で過ごすほうが事故に合う確率は小さいはずですが、皆さんは交通事故のリスクを冒してもこの講座に参加することを選ばれたのですよね」
と申し上げると、みなさんキョトンとした表情になりました。

毎日のように流れる「大流行」「子どもが脳炎で死亡」などのニュースを見れば不安になるのは当然のことで理解できますが、
その一方で高速道路1000円の効果なのか道路は大渋滞。交通事故のニュースも毎日流れているのに、車に乗るのはどうして平気なのでしょう。
インフルエンザを恐れる気持ちがありながら、子連れで人ごみに出かけた人も多かったはずです。ご実家に帰るのに、車より電車の方が事故に合う確率ははるかに小さいと思いますが、そういう理由で自家用車をやめる人はあまりいらっしゃらないでしょう。
私たちはある利益(たとえば車移動の便利さやレジャーの楽しさなど)を得る代わりに、無意識にこういう小さな確率のリスクを引き受けて生活しているのです。
事故の無いよう「細心の注意を払う」ことは大事ですが、リスクがゼロでないと不安で何もできないといった心境にはならないほうがおトクです。
感染して重症になるリスクも、予防接種で重い副反応が起こり亡くなったり障害が残ったりするリスクも、少しだけありますが、決して高い確率ではありません。乳児なら「症状がある人から隔離する」という方法がさほどの困難なく取れますから、その方がワクチンより安全で確実かもしれません。お仕事の都合などでそうはいかない方なら予防接種も一つの選択肢ですし、「人混みを避けたり、疲れるイベントを取りやめ体力を温存する」といった対処で重症化のリスクを減らす方法も有効でしょう。救急医療の体制が整った地域なら「重症化のサインを見逃さない」知識と覚悟があれば、「かかって免疫になるのもいい」という選択をする人もいるかもしれません。
不安や怖さに振り回されないで、科学的な知識に基づいて客観的に状況を見据え、自分の場合はどうしたいか、どういう利益のためにどのリスクを引き受けるか、考える力を鍛えていきたいと思います。

(2009年9月26日)