「理想の子育て」の呪縛から脱出するために ~山の事故から「あきらめる勇気」を考える~

お正月休みの登山で、今年も何人もの方が亡くなりました。
インタビューを受けた専門家が、「地面が凍りつく冬山は、ベテランでも滑落の危険がある。あきらめて戻る勇気を持ってほしい」と話していました。


私は子育て相談で、「他の人はもっとできているのに」というお話を聴いたとき、よく登山の話をします。「富士山の頂上まで登れる人はいるかもしれないけれど、自分が7合目で息が切れ、頭痛に襲われて『これが限界』と感じたら、頂上をあきらめて引き返す決断をすることが自分のためにも周囲の人のためにも大事なのではないでしょうか?」

「もっとできる人」にあこがれるのは素敵なことです。
その人を目標に努力するのは、悪いことではありません。

自分を大切に思い、大好きな自分に磨きをかける努力は楽しい努力で、自分を傷つけることはありません。
でも、なんだか「負ける感じ」がくやしかったり、できない自分が情けなかったり、ダメな自分に怒りを感じたり、そんな感情が根っこにあるとしたら、ちょっと立ちどまって、その感情をじっくり感じてみてください。

その努力は、自分を磨くのではなくて、自分を削って傷だらけにしていませんか?
ダメで、許せない自分に罰を与えるような努力は、心やからだが壊れるまでやめられなくなってしまうことがあります。
いやな感情から逃れるために自分を罰し続けるのをやめるために、自分にやさしくできるようになるために、どうぞあなたの話を一生懸命聞いてくれる誰かに相談してください。

登山家の野口健さんが、何年か前のテレビ番組でとても印象深い話をしていました。
「山に行くとき、必ず『無理しないでね』と言われるんですよ。でもね、無理しないでエベレストには登れない。目標を達成するために『しなければならない無理』と『してはいけない無理』がある。そこを見きわめられることが一番大事。命を落とすような無理をしたら、結局目標は達成できませんから」
正確な表現は覚えていませんが、そんな話だったと思います。

子育てで親が達成すべき最優先の目標は、子どもの心に寄り添い、命を守ることです。
他の親より優れている(あるいは人並みにできる)と認められることではありません。

子どもの命を守るために、親はかなり無理をします。
人間の子どもは親が無理をしないと育たないのですけれど、親の責任を果たすために(目標を達成するために)、自分の心やからだが壊れるような無理をすることは絶対にしてはいけないのです。

自分にやさしくなること、一番大切なこと。

2017.1.5