子どもが言うことを聞かなくて困ったら、言うことを聞いてみよう

私はほぼ毎週金曜日、子育てひろばの中をウロウロして「なんでも相談」というのをやっています。
そんなときに経験した出来事です。

大型積み木で機嫌よく遊んでいた3歳の女の子にママが「帰るよ」「さあ、帰ろ」と何度も声をかけるのですが、お子さんは聞かずに遊び続けます。
そうこうするうちに、「もっと遊びた~い!」と猛抗議が始まりました。
「だって、帰らなくちゃ」「約束でしょ」ママが一生懸命説得するのですが、お子さんは「もっと遊びたい!」と繰り返すばかり。だんだん泣き声になり、ついには床に寝そべって大泣きになってしまいました。

「こういうとき、どう言えばいいんですか?」
下の子をおんぶして困り果てた様子のお母さんが、たまたま近くにいた私に尋ねました。
親御さんなりに努力しているときに私が不用意に手出し・口出しすることは避けるようにしていますが、
このときは(なんとかしてよ!)と頼まれたように感じて(勘違いだったらごめんなさい)、私がお子さんに話しかけてみました。

もっと遊びたいの? (うなずく)
何をしていたの? 積み木? 積み木で何を作っていたの? おうち?(うなずく)
おうちつくってたんだ。(半円の積み木を指さすので)これを積みたかったの?(うなずく)
そうか。これを積んだら帰れる?(うなずく) OK!どこに積むの?(その積み木を、自分で決めた場所に積む)
じゃあ帰ろうか? 続きはまた今度でいい?(不満そうに泣きながらも、うなずく)
よし、じゃあ立とうか(泣いて、立たない。私が両手を持って引きあげようとすると抵抗する)
自分で立てる?(泣きながらうなずく。黙って待つと、まもなく立ち上がる)
ありがとう。いい子だね(頭をなで、手をつないで玄関へ)
靴はどこかな(自分で棚から靴を出すが、立ったまま履かない)
自分で履ける?(うなずくが、立ちつくして履かない)
どっちの脚から履こうか? おてつだいしますか? (あわてて首を振って、自分で履く)
じょうず! さすがお姉ちゃん! また来てね

「先生の言うことなら、聞くんですね・・・」
ママが、近くにいた他のスタッフに言いました。
でも、お子さんは私の「言うことを聞いた」わけではありません。
だって私は、「言うことを聞かせる言葉かけ」をいっさいしていません。
くりかえし、しつこく子どもの気持ちを聞いて、どうするかを自分で選んでもらっただけです。
気持ちを受け止めてもらえたから、お子さんは不満ながらもあきらめ、なんとか自力で葛藤にケリをつけることができました。

いわゆるイヤイヤ期は、「自分で決めたい」「自分でしたい」(人の言いなりにはならない)という必死の意思表示が始まる時期ですから、大人からの指図は受け入れられません。
「命令形ではなく疑問形で言うのがコツ」と申し上げると、「なるほど」とうなずかれました。

疑問形は、相手の意思を確認して尊重するコミュニケーションの基本です。
私たちが子どもの気持ちを聴かずに、こちらの言うことを聞かせたくなるのは、「気持ちを聴く」ことがイコール「言いなりになること」のような思い込みがあって、それはよくないと思うからかもしれません。
子どもの気持ちを聴き、尊重することは、言いなりになることではありません。
気持ちを認め、行動には制限があることを根気づよく教える(この例なら、「もっと遊びたい」という気持ちを認め、「時間になったら帰る」という行動の境界線はゆずらない)のが「しつけ」です。

もちろん、これは理想論です。
私自身の子育てが、このようにできたわけではありません。
私の子育ても、数えきれない失敗・後悔・自己嫌悪の繰り返しでした。
子育てが一段落してから臨床心理を学んだことと、なによりもわが子ではない距離感があってこそ冷静でいられただけです。

何度失敗しても、迷いながら少しずつ「気持ちを尊重する」方向へ軌道修正できれば、子どもはちゃんと育ちます。
いつからでもやり直せます。
どうぞ自分の心の声を聴いて、自分をいたわってください。
それが、子どもの心の声を聴けるようになる一番の近道ですから。

2017.6.3