桜が咲かない入学式 ~「私の常識」は、「あなたの常識」ではない~

今年の桜の開花は、例年になく早いようですね。
私の住む千葉県でも、入学式には散ってしまうのではないかと気をもむ人がいます。
入学式と言えば桜・・・

「それって、おかしいでしょう?」
以前、健康教育の勉強会で知り合った中学校の先生が語った言葉は、今も鮮明に心に残っています。
「私は北海道の出身で、私の郷里では入学式に桜は咲かない。教科書でも、歌詞でも、テレビ番組でも、入学式=桜 というフレーズが当然のようにまかり通っているけど、それは関東を中心とする限られた地域の常識であって、北海道ではまだ咲かないし九州では散ってしまう。『中央の常識』が、全国すべての常識ではないんだよと、私は生徒に伝えています」
言われてみれば、その通りです。北海道ではまだ咲かないし九州では散ってしまう。誰でも知っているはずなのに、関東に住んでいると少しの疑問もわかないのがむしろ不思議なくらいです。

子育ての相談を受けるときにも、このことはとても重要なポイントになります。経験者のアドバイスは参考になることもあるけれど、ならないこともある。私がよかったこと、私がうまくいったことが、相談者にも当てはまるとは限らないのです。子どもが泣きやまないとか、ご飯を食べないとか、言うことを聞かないとか、そういう日常的な場面で親がどう感じてどんな反応をするかは、親自身が違う環境で違う育てられ方をしてきたのだからひとりひとり違っている。
相談者の話を聞いていて、
「どうしてそんな風に思うの? どうしてそんなことするの? 信じられない!」
といった気持ちがわき上がったら、自分の中に「相手も自分と同じように感じるはず」という思い込みがある証拠です。

桜の開花は多くの人にとって心おどるできごとだけど、「みんな」がそうなわけじゃない。その季節に大切な人を失った記憶がある方には「悲しみ」をもたらすかもしれないし、約束を果たせなかった後悔とつながっている方は桜を見ると自責の念にかられてつらくなるかもしれない。桜がいじめられた記憶とつながっている人は、単純に桜を楽しめる人に攻撃的な気持ちを向けるかもしれません。

「どうして素直に楽しめないの!」と非難する前に
「きっとこの人には、そうならざるをえない理由がある」 と考える。
「つらい体験があるのかな?」と思えば、攻撃的な人にもやさしく寄り添える。
そういう人がいっぱいいる世間に、なったらいいな・・・

(2010年3月26日)