体罰禁止の法制化をめぐって  ~将来他者を傷つけない子に育てるために、今するべきこと~

「おもちゃの取り合いなどで上の子が下の子を叩き、下の子が大泣き」といったきょうだい間のトラブルが絶えず、いくらダメと言っても繰り返すのでほとほと困っている。叱りすぎはよくないと分かっているけど、「ダメはダメ」と厳しく言わなければ将来事件を起こすようなことにならないか不安で、どうしても上の子を厳しく叱り続けてしまう…

私は毎週金曜日に地元の子育てひろばの中で相談を受けていますが、昨日はそんなきょうだいゲンカの対処に困っているというご相談が次々入りました。

親による体罰禁止の法制化に伴って厚生労働省から「子どもに苦痛や不快感を引き起こす行為はどんなに軽いものでも体罰」とする指針案が示されたことや、障害者施設で起きた殺傷事件の裁判の様子が毎日報道されていることもあってか、「じゃあ、どうすればいいの!?」という親御さん達の戸惑いには、毎日のことでもあり、切実なものがあると感じました。

いじめ、パワハラ、DV、虐待・・・思わず他者を傷つけてしまう攻撃的な人の心の中には、どんな感情があるのでしょうか…
きっと、怒りがたまっているのですよね。

ですから、子どもが将来攻撃的な人にならないようにしたかったら、親は子どもの中に怒りの感情がたまらないようにすればよいのです。

ケンカって「気持ちのぶつかり合い(目に見えない対立)」なので、第三者が「叩いた」「泣いた」という目に見える出来事に気を取られ、「よい・悪い」の判断をして対処しようとすると一層こじれます。

自分が大ゲンカした時のことを思い出すと分かりやすいと思いますが、いやなことをされたり言われたりして怒りの感情が湧きおこり、思わず相手を攻撃してしまった… そんなとき、第三者に怒られたり謝罪を強要されたりしたら、どう感じるでしょうか?
人に怒られて、自分の怒っている感情をなくすことができたでしょうか?

確かに相手を攻撃した行為は「悪いこと」ですが、そうしないではいられなかった気持ちを分かってもらえない悔しさがつのって、ますます怒りが増してしまうのは自然なことです。

「人には(この事例だと「弟には」、夫婦ゲンカなら「パートナーには」)優しくするべき」「そんなことで怒こるべきではない」と諭されても、心のわだかまりを頭(理屈)で納得させることはできないのです。

その場は親に逆らいきれず、その怒りの感情を心の底にねじ込んだとしても…
そんなことが何年にもわたって繰り返されれば、いずれ堪忍袋が満杯になってやぶれ、たまりにたまった怒りが噴き出すのはとても自然な成り行きです。

多くの場合そのはけ口は、怒りのもと(厳格な親など、逆らえない強者)ではなく、社会的弱者や身近な自分より弱い者に向かいます。障害者や高齢者、クラスのおとなしい子、職場の部下、収入のない妻、そしてわが子、など。

ですから、怒ってきょうだいを傷つける子に「怒ってはいけない」と言い聞かせたり、言ってもわからないから体罰や暴言でしつけたりし続けると、将来他者を傷つけてしまう人になるリスクが高くなります。

もしあなたが、自分の思うようにならない子どもに腹を立てて攻撃してしまったとしたら、強く非難され罰せられるのと、「思わずそうなってしまったんだね」とつらい気持ちに共感してもらうのと、子どもに優しくできる親に成長するにはどちらが有効だと思いますか?

人を攻撃しない子に育てたければ、思わずそうなってしまった子どもの気持ちに共感してあげることが一番大事。
ただね、そう思っていても、そうしたくても、そのほうがいいってわかっているのに「できない」って悩んでいる方がいっぱいいるのです。

できない自分を責めて、つらいから結局また子どもを攻撃してしまう悪循環…

気づいてください。
ご自身が、気持ちを分かってもらえなかった悔しさや不安、悲しみなどの感情をいっぱい心の底に押し込めているってことに。

自分を叱るのをやめて、自分に優しくできるようになればきっと変われます。
共感的に聴いてくれる人をさがして、子どもの頃のあなたの物語を話してみましょう。もちろん、このweb相談室もご利用いただけます。

体罰禁止の法制化は、子どもの気持ちを無視して力で従わせることを正当化する余地をなくし、誤ったしつけ論で傷つく親子を救う初めの一歩です。

2020.1.13