子どもには、失敗する権利がある。親にも、ね!

「人の身体は、転ばないようにではなく、うまく転ぶように作られていく」

11月2日の朝日新聞「折々のことば」で紹介された那須耕介(法哲学者)の言葉です。このコラムを書くために切り抜きを読み返して、最後が「いる」ではなくて「いく」であることに気づきました。何度も何度も転びながら、だんだん上手に歩けるようになっていく… 赤ちゃんを見ていれば、だれでもわかることなのに、こんなにシンプルで、これほど大切なことを私たちはどうして忘れてしまうんでしょうね。

「歩けるというのは、上手な転び方をわきまえていること」「柔道でまずは受け身を習うように、感情を豊かで安定したものにするにも『感情の受け身』を習得することが大切」

これを読んで、私は43歳で大学の研究生になって初めてパソコンに触ったときのことを思い出しました。教授から、中年のおばさんにPCの使い方を教える役目を託された若い院生が最初に教えてくれたのが、まさにこのことでした。

「最初に、間違えたときの直し方を3つ教えます。これで戻れない時はボクを呼んでください。どんなに間違えても、めったなことで必要な情報が失われてしまうことはありません。ボクが取り戻せますから、怖がらずにとにかくどんどん触ってください」

それから何度もSOSを出しながらも少しずつPCに慣れ、半年ほどたつうちにはエクセルでの集計や統計ソフトを使ったデータ分析などができるようになったのですから驚きです(もちろん、使わなくなったらきれいさっぱり忘れてしまいましたが)。

最近はきょうだいの数が減り、親は子どもが失敗しないように言葉をかけたり手伝ったりすることができるようになりました。失敗を恐れて挑戦しない子や、失敗から立ち直るのがむずかしい子が増えている背景に、そうした「感情の受け身」を学ぶチャンスの減少があるように思います。

親は、わが子が失敗しないように教えたり手助けしたりするのではなくて、失敗してもやり直せることこそを教え、安心して失敗できるように見守り、求められたら支え、失敗しても動じることなく子ども自身が感情を立て直す作業に寄り添えばいい。

でも最近の子育てでは、それが案外難しいですね。
SNSの時代になり、周囲の目も厳しく、親御さんご自身が自分の意思で選んだ行動をすることが許されない過干渉の親子関係や、失敗すると責められる環境で育っていたりすると、どうしても子どもを失敗させるわけにはいかない…
だって子どもの失敗はイコール親としての自分の失敗と感じて(そう感じさせる「世間の目」があって)、反射的に責められることを恐れるから。

うまくできないことを責める「世間」が変わることも大事な視点だけれど、「今」がつらい人には間に合いません。
「親も子もたくさん失敗して、失敗から学んで成長すればいい。赤ちゃんが何度も尻もちをついたり、つんのめったりしながら上手に歩けるようになったみたいにね!」
そう言ってくれる支援者が、いっぱい、いっぱいいたらいい。ご近所さんでも、ママ友でも、だれだって気づいた人が支援者になれる。

困っている親子が、そういう支援者に出会えますように。

22.11.14

トラブらないように、困らないように、先回りの働きかけが多くなっていませんか?  ~失敗して、後悔して、再起するのも大事な経験~

私たちのNPOが運営する子育てひろばで、最近あった出来事です。

高さ1mもない木製のすべり台があるのですが、登り切った平らなスペースに1歳前と見られる子が座り込んでいました。その子にとっては、ただ高いところに座って周囲の様子を見ていることが心地よかったのかもしれません。

そこに2歳過ぎと思われる子がやってきて階段を登ろうとすると、お母さんが駆け寄って子どもを押さえ、「順番、順番! 小さい子がいるでしょ」と声をかけました。

いや、座っている子はすべる気がないのですから、「順番に」が成立する状況ではありません。

小さい子の親御さんも、登ってこようとする子に「ごめん、ごめん」と謝って、あわててわが子をどけようとします。これではどちらの子の気持ちも打ち砕かれて、残念な体験になってしまいます。

私は登るのを止めようとするママを止めて

「ちょっと見ていませんか? 小さい子がいることは彼にも見えているから、止めなくて大丈夫だと思いますよ」と声をかけました。

おもしろいことに、その子が小さい子の脇を通り抜けて上手にすべり降りると、それを見ていた小さい子ががぜんすべる気になって、ママに介助されながら嬉しそうにすべり降りたのです!

あたりにいたみんなが思わず拍手喝さい。
止めないで見守ったおかげで、どちらの子にもいい体験になりました。

少し前には、同じすべり台でこんなこともありました。

1歳後半くらいの子だったでしょうか。車のおもちゃを持って階段を登ろうとするのを、ママが「ダメ、ダメ。おもちゃを持っては上がれないよ」と言って車を取り上げようとするのですが、しっかり握りしめて離しません。その子は両手で手すりをつかまないと登れないようで、1段目に片足をのせたまま片手で手すりをつかみ、登りたいのに登れず困っている様子です。

私が「上に着くまで預かろうか?」と声をかけると、なんとなくこちらの意思が伝わったようで、車を預けてくれました。登りきったところで返してあげると、受け取った車をすべり台からすべらせ、スピードに乗って遠くまで走っていくのを満足げに見届けてから自分もすべり降りました。
(もちろん、車が走っていく先で誰かにぶつからないように配慮するのはスタッフの責任です。)

たえず子どものそばにいて、トラブルや事故を未然に防ごうとする親御さんの気持ちもわからないわけではないのですが、子どもが思いついたことを試して快感を覚えたり、失敗を重ねながら成功にたどりつく達成感を味わったりするチャンスを奪ってしまうのは本当にもったいないと思います。

子どもが困らないように先回りして対処する親心も、子どもは困る前に言われても受け入れられず、思いを邪魔される怒りで癇癪になってしまうことも多く、親もストレスを抱えることになりがちです。

一方、子ども自身が現に困っているときなら提案が受け入れられる可能性が高く、大人のサポートを得てやりとげる体験をする貴重な機会になります。

思うようにならないと物を投げる、親や他児にすぐに手が出る、といったお悩みを伺うこともよくありますが、子どもの「したい気持ち」が無視されることが多くてイライラがたまっていないか、チェックしてみる必要があるかもしれません。

新学期が近づくこの時期、「入園して困らないように」「学校で困らないように」「勉強が分からなくなって困らないように」と親御さんの前倒しの働きかけでお子さんが不安定になっているケースに度々出会います。

親の務めは「困らないようにしてあげる」ことではなくて、「思い通りにして困った事態になっても、後悔を糧に仕切り直し、誰かのサポートを得てやりとげる力をつけるチャンスを奪わない」ことなのではないでしょうか。

2022.1.13