いま目の前の子どもの姿は発達の通過点で、決して「このまま」にはなりません  ~「言うことを聞かない子」にイラだたない親になるために~

昨日(12月10日)の朝日新聞「折々のことば」で、すてきな言葉に出会いました。

「いまは その とちゅうだもん。」
絵本「ちいさいわたし」から。

今はまだいろんなことがうまくできないけれど、いつかはちゃんとできるようになるから、待っててねと思っている・・・

そうなんです! そこをわかってあげてほしい!!
親御さんの相談を伺っていると、そう思うことが本当によくあります。

保護者対象の子育て講座で、私はほとんど毎回「目の前のお子さんの姿は、発達の通過点。決してこのままにはなりません。お子さんを信じて!」という話をします。

心の発達は目に見えないので、つい勘違いしてしまいがちですが、少なくとも3歳前の子に「貸して・どうぞ」や「ごめんなさい」が言えるようにしつけようとするのは、体の発達で言えばハイハイしている子に「ずっとハイハイしていたら困る。歩けるようにさせないと」と思って、「『手をついてはダメ。立って歩くのよ!』といくら言っても、手をつくんです」と悩むようなことなのです。

発達段階としてまだできないことを一生懸命しつけようとして、できない子にイラだち、つい声を荒げてしまう自分を責めて、つらいからますます攻撃的になってしまう・・・ そんな悪循環から抜け出すために、「いまは その とちゅうだもんね」と、つぶやいてみてください。

危険なことや社会のルールとして許されないこと、遊びをやめて出かける・帰る・寝るといった生活時間を守ることなど、「どんなにイヤでも、しなければならないトキや、してはいけないコトがある」「どんなに欲しくても、手に入らないモノがある」といったことを教えるのは、もちろん大人の責任です。

ですが意欲や好奇心に満ちあふれ、しかも衝動を理性でコントロールする脳機能が未発達の幼い子には、それをわかって、適切に行動するのはとてもむずかしいことなのです。

やりたい気持ち、やめられない気持ちを受け止め、共感しながら、「ダメなものはダメ」。根気づよく何度でも、繰り返し繰り返し教え続ければ、いずれ成長して、できる日がやってきます。

今は、できなくていい。今、できるようにさせなくてよいのです。

2024.12.11

「さみしい夜にはペンを持て」古賀史健  ~そのままの自分を、好きになりたいと思ったら~

今回も本のご紹介です。

巻頭言に「ぼくは、ぼくのままのぼくを、好きになりたかった」とあります。

そして私の仕事は、そういう人と出会い、一緒にこのテーマに向き合うこと…

 

小児科で相談外来を担当することになって2年。

以前は乳幼児の子育て相談が中心でしたが、現在は思春期のお子さんとの出会いも増え、むずかしいと感じています。

彼ら彼女らの気持ちに寄り添うには、彼ら彼女らが今体験している現実をどれだけリアルに想像できるかがカギで、私に求められる最重要な課題です。

心理系の本や雑誌、ケースレポートなどを片っぱしから読んでいるうちに、ふと「箸休め」(雰囲気が違う軽い読みもの)がほしくなって、この本を手に取りました。

だいぶ前に書評を読んで購入したものの、本棚に入れてそのままになっていたのですが、「さみしい夜にはペンを持て」という意味不明というか、どこか謎めいたこの書名に惹かれました。

 

いや~あ、この本は本当にすごい!

うみのなか中学校に通う中学生が、ある日うみのなか市民公園で不思議な体験をする… そんな一見ファンタジーなお話だけど、すごく深い内容がすごくやさしく丁寧に語られていて… ぐんぐん引き込まれ、その日のうちに読み切ってしまいました。遅読の私には、ありえない経験でした。

著者インタビューによると、自分と他者との関係性で悩みながら少しずつ自我を確立していく時期である中学生を読み手に想定して書いたのだそうですが… もちろん、たくさんの中学生にぜひ読んでほしいと思ったし、この本があればカウンセラーなんかいらないんじゃないかと思ってしまった程ですが… でも、それだけじゃない!

「そのままの自分を、好きになりたい」と思っている(つまり今は、自分を好きになれないでいる)たくさんの大人にも、ぜひ読んでほしいと思いました。

私も、スーパービジョン(自分が行った相談過程をスーパーバイザーとともに振り返る自己研鑽)でかなり厳しいことを言われて、ちょっとへこんでいたタイミングでしたが、この本を読んで師匠に指摘されたことに納得がいきました。なんとか仕切り直すことができそうです。

2024.2.26

「ルポ 虐待サバイバー」を読んで、虐待環境を生き抜いて親になった方々との出会いを思う

子育て支援施設での相談や、クリニックの相談外来などで親御さんの様々なお話を伺っています。

「子どもとうまくかかわれない。どうしてもイライラしてしまう」とか、「人に優しくしてもらえるわが子を見て、思わず『ずるい!』と感じ、怒りがこみあげてしまった」とか、そういったお話を伺いながら、「もしかしたらご自身が子どものころ、自然に湧き上がる子どもらしい感情を受け止めてもらえなかったり、理不尽に否定されたりすることが多かった方なのかな」と感じることがあります。

「私の母は毒親でした」とか、「私は機能不全家族の中で育ちました」などと前置きして話し始める方もいらっしゃいます。

子どもの心の健全な成長には、自分が感じるままの気持ちに親からの共感や承認が得られたり、甘えたい気持ちが受容されて安心したり、そうした経験の積み重ねが欠かせません。そのような感情体験ができないまま大人になり、親になっても、心の中の「傷ついた子どもの私」が今も生き生きとそこにいて、「私はしてもらえなかったのに」と、わが子にやさしくしようとする今の自分の足を引っ張る… そういうことは本当によく起こるのです。

支援者はその構造に気づいていないと、相談者をさらに傷つけてしまうことがあります。そうなると相手は、自分が傷つくことを恐れて支援者を拒否する流れになって、せっかくのサポートシステムが機能しません。

「ルポ 虐待サバイバー」(植原亮太 集英社新書)
この本では、そんな状況がリアルに鋭く解説されています。

支援を提供する人はもちろん、不適切な助言に傷ついて「支援なんかいらない!」と思っている人にも、ぜひ読んでほしい本です。

2024.1.15