イヤイヤ期のしつけを考える  その5  ~「ごめんなさい」は、言わせないほうがいい~

2~3歳までの子どもが複数いれば、おもちゃの取り合いは避けられません。
強引に奪い取ったり、時には相手を叩いたり押し倒したり、そんなことが絶え間なく起こります。
その時、親がしなければいけないことが二つあります。

その場の状況次第でどちらが先でも構いませんが、どちらが欠けても「しつけ」になりません。

  1. 「どうしてもそれがほしい」「ボクが使っているものを取っちゃダメ」「自分の世界を邪魔されるのは絶対にイヤ」といった気持ちはしっかりと受け止め、「ほしいのね」「取ったらダメだよね」「壊されるかと思ってびっくりしたね」などと共感を伝える。
  2. 「だからと言って、相手を叩いたり押し倒したりしてはいけない」と、人を傷つける行動だけを手を取り目を見て厳しく叱る。

ここでもう一つ、

3 相手に謝罪する が、必要だと考える方も多いと思います。

特に相手にケガをさせてしまったり、相手が自分より小さい子(弱者)で、大泣きになってしまったりしたときに、謝れる子に育てることはとても大切です。

「悪いことをしたら謝る」は、成長過程で子どもが必ず身につけなければならない社会のルールです。
教えるのは、もちろん大人の責任です。

なぜ、謝らなければいけないのでしょうか?

大人同士の争いで、謝られてもちっとも謝ってもらった気がしなくて、余計に腹が立った経験ってありませんか?

謝ることの本質は「自分の非を認めること」なので、表面的な言葉だけで「ごめん」と言われても、「本当に悪いと思っていない」「私がこんなに傷ついたことをちっとも分かっていない」と感じれば許す気にはなれません。

たとえば夫婦げんかをして、分かってもらえないいら立ちが高じて相手の大切なものを投げつけ、壊してしまったら・・・

「何すんだよ! 謝れ!!」と怒る夫に、素直に謝れるでしょうか?

確かに、相手の大事なものを壊したのは私が悪い。けど・・・私の気持ちを分かってくれないあなたも悪い(私にそうさせたのはあなた)・・・

コトの本質は、互いの「気持ち」の衝突なので、「気持ちを伝え、分かり合う作業」を伴わない「ごめんなさい」は、争いの解決に役立ちません。

これまでのコラムで繰り返し書いてきたように、子どもの脳機能は未発達で自己中心です。
自分にとって大事なものを死守するのが発達段階として自然な姿なのですから、子どもの中では「私の大事なものを取る相手が悪い」「私が欲しいものを渡さない相手が悪い」のです。

謝罪を強制すれば、子どもの心は「分かってもらえないくやしさ」でいっぱいになり、反発するばかりで「反省」や「後悔」の気持ちが起こる余地がなくなってしまいます。

大人が裁判官の立場に立って「あなたが悪い」と決め、「ごめんなさい」と言わせるのは適切ではありません。(夫婦げんかで怒っているとき、親に「あなたが悪い。謝るべき」と言われる感覚を想像してみてください。)

未熟な子どもの心の中に「悪かった」とか「しまった、しなければよかった」といった気持ちがわき起こるようにするには、どうしたらよいでしょうか?

《 相手を傷つける行為を「絶対してはいけない」と教えると同時に、そうならざるを得なかったやむにやまれぬ気持ちを認め、親が誠心誠意相手の子に謝る姿を見せる(お手本になる)こと 》

とても時間がかかります。
相手の親にどう思われるか、不安かもしれません。
それでも、これ以外の対応はないと私は思います。

大人も、自分の欲求を通すために相手を叩くことがあります。親でも、子どもが思い通りにならないと、(思い通りにさせたい自分の欲求を通すために、「しつけ」という名を借りて)わが子を叩くことがあります。

衝動を理性でコントロールするのは、脳機能が発達しているはずの大人でもなお、ものすごく難しいことなのです。

過ちを犯したとき、自分の非を認めて謝れることは本当に大事なしつけです。
だからこそ、とてもたくさんの手間と時間をかける《 覚悟 》が必要です。

昔から「急いては事を仕損じる(せいてはことをしそんじる)」と言われるように、幼児に形式的な謝罪をさせるのは、逆効果になることを忘れないようにしたいと思います。

2018.8.31