風疹の予防接種と妊娠 ~リスクは、反対側からも見る習慣を!~

昨日、<風疹や予防接種に関する二つの厚生労働省研究班は21日、「予防接種後に妊娠がわかっても人工妊娠中絶を考える必要はない」とする連名の緊急通知を日本産科婦人科学会などに行い、情報の周知徹底を求めた>との新聞報道がありました。

風疹の予防接種は生ワクチンなので感染したのと同じ状態になるため、胎児への影響(先天性風疹症候群による障害)が起こらないとは言いきれませんから妊娠しているかもしれない人は受けられませんし、接種後2ヶ月は妊娠しないように指導されます。

ですが、「妊娠していないと思って予防接種を受けた後で妊娠が分かり、さかのぼって数えてみると接種した時にはすでに妊娠していた」「避妊に失敗して、2ヶ月以内に妊娠してしまった」といったケースがかなりあって、多くの相談が寄せられているようです。

ワクチンに使用されるウイルスは十分に弱毒化されていて、実際に妊娠中の接種や接種後2ヶ月未満の妊娠で先天性風疹症候群が発生した例は1件も報告されていません。

接種前後の妊娠を避けるのは「念のため」であり、「万が一」を防ぐためであって、障害が起こるリスクが高いわけではないのです。

行政としては、「まずないことなのだけれど、防げるものはなるべく防ぎたい」ということと、万が一胎児に何か障害があったときに責任を問われたくないという面もあるのでしょう。

さて、そうした事情の人が医師に「本当に大丈夫ですか? 障害は絶対に出ませんか?」と質問したら、医師はどう応えるでしょうか?

もちろん「絶対とは言えない」と応じざるを得ないと思います。それは「先天性風疹症候群が発生する確率がゼロとは言いきれない」ということだけでなく、風疹にかかったり予防接種を受けたりしなくても、いろいろなことにすごく気をつけて、思い当たる原因が何もないお母さんでも、障害を持って生れてくる赤ちゃんはいるからです。

妊娠中は安易に薬を飲まないとか、無添加や無農薬の食品を選んだほうがいいとか、重い物を持たないようにとか、障害や早産の予防のためにいろいろ「気をつけて」と言われることがあります。でも、どんなに気をつけてもそれは起こりうることで、「気をつけても避けられないこと」がほとんどなのです。

「大部分は防げないのだけれど、わずかであっても防げるものは防ごう」という話で、「そうすれば防げる」ということではありません。

こうした「予防に対する幻想と誤解」から、早産や病児・障害児を出産した母親が自責感に苦しみ、追い込まれてしまうケースに出会うたび、もっともっと世間の理解を深めていかなければと思います。

最近話題になっているダウン症の出生前診断にしても、それで分かるのはごく一部の染色体異常だけで、他の障害が起こるリスクは誰にも予測できません。子どもを持つということは、「どのような子であっても、その命を大切に育む覚悟をすること」なのだと思います。

2013.5.23