グリンピースご飯 ~ディスカウントの後遺症~

この季節になると、お店でさや付きのグリンピースを探します。
白いご飯に鮮やかな緑色の豆・・・ピースご飯が大好きです!

「この彩り、本当に春らしくて、きれ~ね~」
料理は得意ではなかった母ですが、貧しい我が家の食卓に春の訪れを告げるピースご飯は格別でした。家族の茶碗に自慢のピースご飯をよそう母のうれしそうな表情は、私のハッピーな気分の拠り所として心の宝箱に大切にしまってあります。母の横に座って、おしゃべりしながらさやのヘタを取り、豆をザルに出す作業をするのも楽しい時間でした。

結婚して初めての春、グリンピースが出回ると私は早速ピースご飯をつくりました。
「ホントこの色、いかにも春!って感じで、きれいよねぇ」
ウキウキして茶碗によそった時、彼はしかめっ面で言いました。
「ご飯に豆が入ってるなんて、なんか気持ち悪い・・・」
まるで想定外のその反応に私は大ショックで、二度と作るまいと心に決めました。母との大切な思い出を汚されたような、他人様が聞いたら「大げさな」と笑われそうですが、母を根底から否定されたような、そんな気持ちになったのです。

長い夫婦生活を経て、その時の夫の反応の意味を、今の私は理解できます。ただそれは頭で理解したことで、心では許していない感じがします。何年もたってから確認したら、夫はそのことをまったく覚えていませんでした。何かの折に「食べたい」とさえ言ったところをみると、あれは本心ではなく、ウキウキしている私を見て反射的に水を差したくなっただけなのでしょう・・・特別なことではなく、誰の心にもよくあることです。

商品を値引きして安く売ることをディスカウントといいますが、心理学ではこの言葉を人と人との心の交流にあてはめて、相手(または自分)の価値を値引くことをディスカウントといいます。私たちは、よほど心の修業を積んだ人でない限り日常的についディスカウントをしてしまいますが、時にはうっかり(つまり無意識に)深い傷を負わせてしまうこともあるので、特に相談を受けるときには注意が必要です。

子どもたちが成長して家を出た後、私はまたピースご飯を作るようになりました。彼がいない日を選んで、ひとりで(思い出の中の母と一緒に)その彩りと味わいを楽しんでいます。(いえ、夫とは、今は手をつないで街を歩くほど仲良しですけどね!)

(2010年4月5日)