6月18日、東京都社会福祉協議会保育部会主催の研修会でいただいた質問について、会場でお話しできなかったことをこのコラムでお伝えしています。今回は「特別扱い」について考えてみます。
☆ 私が勤務する園では、熱のある子にはジュースを与える習慣があります。「つらい時に、少しでも喜ばせてやろう」という配慮らしいのですが、水か麦茶が一番ではないかと気になります。
⇒そうですね、保育中の発熱で保護者のお迎えを待つ間の水分補給なら、おっしゃる通り水か麦茶でよいと思います。高熱が続いたり、嘔吐下痢や食欲不振が重なったりして脱水の恐れがあるようなときはイオン飲料もよいですが、そんなときは早急に受診していただくのが先ということになります。
教科書的な「正しさ」という意味ではその通りですし、専門家として気になるのも、とても自然なことだと思います。ただ、このご質問を始めて読んだ時、私は思わず微笑んでいました・・・「特別扱い」って、子どもにはとてもうれしいことです。病気を口実に、普段はダメなことを特別にしてもらえるのって、「ここで、自分は大切にされている」「こんな風にしてもらえる自分は、価値ある大切な存在」といった感覚を子どもが体験するチャンスで、「ああ、いいなぁ~」なんて思ってしまいました。
下の子が生まれて上の子がつらそうな時、上の子だけと過ごす特別な時間を作ってあげることは、多くの保育者がよく勧めるアイデアですね。保育園の子どもたちは長時間親元を離れ、集団の中で子どもなりに気を使ったり我慢したりしながらがんばっているのですから、たまに自分だけ「特別扱い」されるご褒美があってもいいのではないでしょうか。
集団保育では、職員は「公平性」に気を使っていますから、特別扱いには抵抗感があるかもしれませんが、「病気」という口実があることに意味があって、他の子も病気の時には同じようにしてもらえるという信頼関係さえあれば、公平性はちゃんと保たれています。それは熱とジュースだけのことではなくて、だれかが親に叱られてつらい時、金魚が死んでつらい時、友達に大切なものを壊されてつらい時・・・保育者にいつも「特別に」寄り添ってもらえる安心感でもあります。
もしこれを読んで、自分は何となく「特別扱い」に抵抗を感じるタイプだなぁ・・・と思われた方がいらっしゃったら、ぜひ口実を探して、ご自身に特別のご褒美をあげる機会をつくってくださいね。
☆ 4歳の障害児の食事のことですが、「これなら食べる」というものがなくて困っています。毎日他の子どもと同じ給食やおやつを出していますが、以前は食べたメニューでも全く受け付けず何も食べない時もあります。食事は専属の保育士が付きっきりで対応し、他の子とは別のテーブルで食べさせています。どのような対応が大事なのか、また、好きな食べものを見つけるにはどうしたらいいか、アドバイスをお願いします。
⇒「何も食べないときには、パンをトーストして出したりしている」とも書かれていて、「食べないままにはできないし、一体何なら食べてくれるの?」というご心労が文面からひしひしと伝わってきます。毎日のことですから、本当に大変ですね。
ただ、ひと口に障害児と言っても千差万別ですし、同じ子でも日によって状況によって心もからだも刻々と変化しているので、私がよいアドバイスをするのは無理のようです・・・ごめんなさい。
ひとつだけ申し上げられることは、子どもの様子や周囲の状況をよく観察して、その刻々と変化する子どもの心とからだの状態を想像してほしいということです。カレーを、「この前は食べたのに今日は食べない」としたら、「今日の子どもの心とからだの事情は、この前とどう違うのか」、保育士の関わりや他の子どもとの関わり(叱られた、ケンカした、思いが通らなかったetc)、環境条件(気になる音やにおいがある、窓や掲示物など目に入るものの位置や内容が変化しているetc)、保護者から聞いた家庭でのできごとや登園途中の様子などの情報を、その子の障害特性(大きな音や声に過敏であるとか、ちょっとした刺激で気が散りやすいとか)をふまえて幅広く検討してみてください。「これなら食べる」というものは見つからなくても、「こういう配慮をすると、食べられることが多い」というポイントは見つけられるかもしれません。
「ひとりだけ別のテーブル」というのも、ちょっと気になります。やむを得ずそうなっているのだと思いますが、こういう「特別扱い」は案外子どもにはストレスになっているかもしれません。うまくいきそうな子を2、3人選んで、先生も含めて座る位置を工夫し、一緒に食べるのは難しいでしょうか? 他の子も少人数でテーブルを囲む形にして、同じにできないかな・・・ 障害児だからと言って、大人の都合で漫然と「いつも」一人だけ別にするのではなくて、「今日はちょっと不安定だから、ひとりの方が子どもがラクそう」というときには一人にする、という柔軟な対応ができるとよいですね。
(2010年 8月16日)