闘う? 闘わない? 日常業務の「仕分け」

11月23日、NCMA,Japan というチャイルドマインダーの養成を手がける会社からの御依頼で、研修会の講師を務めました。

チャイルドマインダーという言葉は、日本ではまだ馴染みが薄いかもしれませんが、英国では長い歴史のある資格で、家庭的保育の担い手として重要な位置を占めているそうです。最近は日本でも、保育所を増やそうにも施設確保が難しい情勢の中で、専門教育を受けた保育者を家庭に派遣するこのシステムへの期待が高まりつつあるようです。

今回の講座は、その中でもさらに研修を重ねて「病児ケアマインダー」となられた方々の中堅研修でした。受講生は皆さん基礎的な研修を終えられ、お仕事として契約者のお子様をお預かりしているたいへん勉強熱心な方々ばかり。専門的かつ現実的な意見や質問が飛び交うとても充実した講座になりました。そんな質問の一つをご紹介します。

「オスバン(現場で頻用される消毒薬です)はウイルスには無効と聞いてショックです。保育室の隅々まで毎日これで消毒しています。結構値が張るので現場としては大変なのですが、インフルエンザの流行もあり、感染対策のマニュアルにそってやっておかないと問題になるからやらざるを得ない感じでやっています。やめてもいいのでしょうか」

マニュアルには、現場の実態にそぐわない部分が少なからずあって、むずかしいところです。決まりにはそれなりの意味があるので勝手に変えるのは危険ですが、その意味がわかっていれば別の方法に変えることは可能でしょう(「ワクワクのたねまき」で詳しく説明しているので、興味のある方はご参照ください)。
消毒の問題なら、おむつ替えなど床がウイルスで汚染されるおそれのあることは必ず決まった場所で行うことや手洗いを徹底すれば、床全体を消毒する必要はないのです。ウイルスに有効なアルコール類はものすごく高価(オスバンの比ではない)ですし、塩素系は安いけれど使い勝手が悪いし、どちらも「保育室全体」を消毒するには適しません。だからと言ってウイルス対策にオスバンを使うのは無意味で、もっと無駄な感じがします(食品を扱う場所や子どもが口にする物に限定して細菌による感染を予防するなら意味があるのですが)。きっちり理論固めをして、マニュアルを変えるべく闘うのも一つの選択肢です。

そう申し上げると、質問された方が「そうですか・・・保育のことでは日々闘っているのですが・・・」とウンザリ顔になりました。現場には同種の悩ましい問題がたくさんあります。そのすべてに闘いを挑むのは無謀なことです。かなりのエネルギーを使ってでも闘って変えていくことと、目をつぶって流れに乗ることと、客観的な判断に基づいて業務の「仕分け」をする必要が、あるのですよね。

(2009年11月28日)