理想論とのお付き合い 子どもを叱ることをめぐって

保育士科の2年生を対象に「育児相談と援助法」という科目を教えています。年が明けて久しぶりに再会した学生たちは、12月に最後の実習を終え、それぞれに成長してたくましく見えました。

1月最初の講義のテーマは「甘えの受容としつけ」でした。
「子どもの心を傷つけるのではないか」と不安で気をつかいすぎ、最低限必要なしつけをするのもためらわれたり、うっかり不適切な叱り方をしてしまって自分を責め、「母親失格」と思いつめたり・・・育児相談を受けているとそんな方々によく出会います。

子どもの心を、傷つけてはいけないのでしょうか?

自分のことを振り返ってみればすぐに気づくと思いますが、私たちはたくさん嫌な思いをして、傷つきながらもそれをいろいろな方法でやり過ごしたり乗り越えたりして大人になったはず。暑さ寒さがからだを鍛え、小さなケガを重ねて危険を避ける知恵を身につけるのと同じで、心も適度なストレスを受けとめ対処する反応を繰り返してこそ、たくましく成長するのです。
熱中症になるほどの高温環境や大ケガにつながる危険物は避けなければならないように、子どもの人格を根底から否定し、生きる力を奪うような言動は避けなければなりませんが、「うっかりひどいことを言ってしまった」「子どもが負担に感じていることに気づいてやれなかった」といった程度のストレスは「子どもの心がたくましく育つために、時には必要なもの」「長く続くのでなければ大丈夫、ここで気づいてよかった」と考えてよいのです。
親も生身の人間。疲れているときも機嫌が悪い時もある。理不尽な叱り方をしたり、不適切な対応をしてしまうことはある。100点の親はいない。100点の保育士もいない。それは、あたりまえのこと・・・

そう言った瞬間、学生たちの表情が変わりました。

学校では、「子育てはこうあるべき」という理想論を教えます。親御さんたちが見る育児書などもそうかもしれません。理想は理想で、行きたい方向を見失わないためにいつも見ている「目印」として大事なものです。でも、「理想の子育て」をしなくちゃいけないわけじゃない。できるわけないし。

あたりまえのことなのに、学生はなんとなく心のどこかで「100点を取らなくちゃいけない」と思っていた自分に、気づいたのかもしれません。

(2010年01月09日)